・うたたね---reno・
左手の指先、煙草の灰を落とす間隔が次第にあくようになっていくのを見つめながらそろそろかと思っていた。
アルコールを入れながらつい先ほどまで夢中になって話をしていたレノは、ルードが話をし始めるとすぐにこっくりこっくりと舟をこぎ始めたのだ。
危ないな、とその様子を窺っていると、それからいくらもたたぬうちにその頭はがくりとテーブルの上に落ち、やがてすうすうと心地良さそうに寝息を立て始めた。
「レノ」
呼びかけて肩を揺すっても既に夢の中なのか、むにゃむにゃと言葉になっていない単語を幾つか無意識に紡いでいるだけで、ルードの声は届いていない様子だった。
こうなってはもう朝まで目を覚まさないだろう。飲みながら取るに足らないバカ話で盛り上がる深夜、レノは自分が話したいことを話してしまうと満足して眠ってしまうことが多かった。勝手気侭とはよく言ったもので、ルードの話に耳を傾ける気など初めから全くないようにも見えるその態度はときどきルードをげんなりさせた。
けれど満足して眠るその表情は見ていてどこか安心できるものだったりもして、普段見せているどの姿とも違う、心から安らいでいる様子のレノのその穏やかな表情を見つめていると、こんな貧乏籤も悪い気はしなかった。むしろこんなにも優しい寝顔を見つめることの出来る自分は頗る幸せな人間なのかもしれない。
左手の指に挟まれたままの煙草を取り上げ、灰皿の上で揉み消してやると、ルードはレノをいつものように抱え上げて寝室へと運んでやった。
ベッドの上へ横たえられると同時に、レノはふにゃっと小さく笑ってルードの名を呼んだ。
「どうした?」
さては起こしてしまったか、とルードが話しかける。幸いレノは相変わらず無防備な寝顔を晒しているままだった。
安堵すると同時にそんなレノの様子がおかしくていとおしくて、ルードはベッドの上へ腰掛けて寝顔を見つめながら、赤い前髪にそっと触れた。
見た目よりずっと柔らかい髪質のそれはレノの本質ともどこか似ている。
「おやすみ、レノ」
囁いて、寝室を後にした。
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