・ごはんのじかん---rude・
ルードはとても綺麗に食べる。
今日の夕飯は焼き魚だった。両面綺麗に焼き色の付いた旬の魚と大根おろし。
レノは食べ始めてすぐから慎重にルードが魚を食べるその手つきを見つめていた。
レノと同じようにして食べ始め、レノと同じ時間をかけているのにも関わらず、食べ終えた二人の皿の様相はいつも全く異なるものになる。
レノの皿の上、食べ散らかされた魚は見るも無残な惨殺死体。ばらばらに刻まれたあわれな姿で皿の上へ横たわっている。さらには皿の外にまでぐちゃぐちゃにほぐされた骨と身の一部が飛んでおり、魚料理を食べた後のテーブルの上が酷いことになるのは毎度お決まりのことだった。
その一方、ルードの皿の上にはまるで魚の標本のような綺麗な骨が残るだけ。頭と尻尾、それを繋ぐ背骨の姿は食べる前となんら変わりないように見える。身をほぐす途中で出た大小の骨はきちんと皿の端にまとめて残され、勿論皿の周囲に無様に飛び散ったりなんかはしていない。
毎度のことではあるが、今日もまたそんなルードの皿と、己の見るも無残な皿の上をレノは不思議そうに見比べた。
「どうした、レノ」
ルードがテーブルの上の皿を見つめながらぴくりとも動かなくなってしまったレノに問う。大体食べ始めてすぐからレノの様子はどこかおかしかった。気がつけばルードの食事をする様子をじっと見つめていて、そのせいで今日のレノは幾度も皿の上から食べ物を取りこぼしていた。
「…おかしいんだぞ、と」
「何が」
「どーしてこんなに違うんだ、と」
突然何を言い出すのかと目を白黒させるルードに、レノは真剣に訴えた。
「お前、なんか隠してるだろ、と」
「だから何を」
何を、と言われた所で何と答えて良いのかレノにはわからない。同じように食べているはずなのに、見ている限りでは何も変わった様子はなかったのに。なぜこんなにも仕上がりが違うのか。何か特別な方法を隠しているに違いない。そう結論付けたことをレノは遠まわしに回りくどく説明した。
ルードはそれを聞いて、ふき出したくなるのを必死に堪えながら、ことさら真面目な顔で応じて見せた。
「何も特別なことなどしていない。お前の思い込みだ。」
「うそだ」
「……嘘じゃない」
その後もルードの言葉に全く聞く耳を持たずに魚の食べ方の「秘密」を聞き出そうと粘るレノに、ルードはすっかり参ってしまった。
説明のしようがないことをどうやってレノに納得させれば良いのか。魚を綺麗に食べることよりもルードにとってそれは遥かに難しい問題だった。
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