・ルルちゃんの執事(たぶん3話あたり)・
カレン・シュタットフェルトがシュタットフェルト家の次期当主の座からはずれることになったという噂は、アッシュフォード学園内に瞬く間に広まっていった。
「お願いだ…カレンを助けてやってくれ。このままだとあいつは…!」
涙を浮かべながら訴えているのはカレンの執事であるジノだ。
「あいつはシュタットフェルト家の当主としてふさわしいふるまいをこれまでだってずっとやってきたんだ…なのになんで政略結婚なんか…!!」
「ジノ、落ち着くんだ。執事が感情に流されることはあってはならないはずだ」
「でもスザク!このままだとカレンが…!」
激情に突き動かされるまま訴え続けるジノに腕をつかまれて、とまどうスザクの背後に立っていたのはカレンだった。
「ジノ、ちょっとまって」
「カレン…」
菫色の瞳を大きく見開いてカレンを見守るルルーシュに、カレンは意を決したように口を開く。
「ルルーシュ、私、あなたに決闘を申し込むわ。あなたが勝ったら一つだけ、なんでもあなたの言うことを聞いてあげる。そのかわり私が勝ったらあなたはこの学園を辞めてちょうだい」
「何…!?大体、そんなことをしてお前になんのメリットがあるというんだ、カレン」
「…私が勝ったらこの学園に残れると…とある方が約束してくださったのよ」
ある方とは一体誰のことなのだろう。そうルルーシュが思案している間に、様子を窺っていたリヴァルが声を上げた。
「でもスザクとジノじゃ、執事ランクに差がありすぎだろ?」
「誰が執事同士の決闘だなんて言ったかしら?私とルルーシュの決闘よ」
「なっ……カレンと、ルルーシュのっ?!」
これにはさすがにリヴァルも絶句するしかない。
「そんな…カレン」
俺には無理だ。そうルルーシュが告げようとした途端、すかさずスザクが声をかけてきた。
「ルルーシュ様、この決闘をお受けください」
「スザク…お前」
「覚悟をお決めください、ルルーシュ様」
やたらと落ち着きはらったスザクの声とは対照的に、ルルーシュは混乱しながらもこの場を丸く治める方法が無いか必死に思考を続けていた。
「ただし条件があります。決闘の内容はこちらで決めさせて頂きたい。よろしいでしょうか?」
「いいわ」
スザクの問いに余裕を持って応じるカレン、それが結論だった。
***
「俺が負ければカレンはアッシュフォードに残ることができる。要は俺が負ければ良いということなんだろう?スザク」
「いいえ、ルルーシュ様は負けるわけにはいかないはずです。シャルル様とのお約束をお忘れになったというのですか?」
平凡だけれど幸福な日常、それを全て捨てて、こんな学園に来る羽目になってしまったのも、貴族階級の子弟たちの間で居心地の悪い思いを続けてきたのも、すべてはルルーシュの亡き母、マリアンヌのためだった。ルルーシュの願いはマリアンヌの遺骨をブリタニア家から取り戻す、ただそれだけのことだったのだ。
けれどそれは先日、ブリタニア家の後継者の一人であるナナリーがルルーシュにきちんと約束してくれていた。
「ナナリーが約束してくれたんだよ、スザク。母さんの遺骨はちゃんと分けてくれるそうだ。だから俺がアッシュフォードに残る理由なんて、そんなものはもうどこにもないんだ…」
「決闘は明日の正午です。内容は先方にはお伝えしてあります。申し訳ございませんが、自分は…決闘には立ち会うことができません」
「好きにすれば良い。お前はもう俺の執事なんかやらなくたって構わないんだからな。お前には悪いが、俺は決闘に行くつもりはない」
「行ってください」
スザクの有無を言わせぬその言葉に、ルルーシュもまたむきになって返した。
「俺は決闘なんかしない」
「してください…そして、勝ってください!」
「だから何度も言わせるなスザク!俺にはここにいる理由はもうないんだよ!」
激昂して、部屋を出て行こうとするルルーシュの腕をつかんだのはスザクの手だった。
「自分には理由があります!ルルーシュ様にお仕えしたいという理由が!」
2009/1
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