・きみのちとなりにくとなり・



「だから――俺を殺せ、スザク」
ああ、それは僕の言葉だったはずなのに。

僕は父を殺したあの日からずっと、誰かに罰して欲しかった。
うしろから指をさして、高らかに声をあげて、僕を非難して、そして殺して欲しかった。
このどうしようもなく傲慢で卑劣な僕を。間違ったやり方を無理やりに、ただの自分のわがままのために押し通したこの僕を。
いつかやさしい誰かが僕を殺してくれる日が一日でも早くやってくればいいのにと。
父のことを思うたび。日本のことを思うたび、この世界のことを思うたびに僕はただひたすらに願っていた。
どうか僕を殺してください。一日も早く。
僕は卑怯で悪辣な、最低な人間なのだから。
そんな僕という人間を、ただひたすらにすべてにおいて手をさしのべてだきしめて、肯定してくれたユフィをも僕は守ることすら出来なかったのだ。
父を殺した罪を。ユフィをも守ることが出来なかった、見殺しにした罪を。
それだけじゃない。ランスロットを駆って、数多の人を殺すことで今日まで生きながらえてきた罪を。

僕を罰してくれるのはきみだと思っていたのに、ずっと。
どうしてきみがそれを言う?それは僕の言葉だったはずなのだ。
僕が欲しくて欲しくて、仕方なかった言葉だったはずなのだ、それは。

「お前にならわかるだろう?スザク。お前は本当は、ずっと――ずっと」

そうだよ、ルルーシュ。
やっぱりきみはさすがだね。僕のことなどすべて、簡単に見抜かれてしまうんだね。

「そうだよ、ルルーシュ。きみの言う通りだ。僕は……」

死にたかった。
ずっと殺して欲しかった。
だから死にたいと願って生きてきた。
死ぬために生きてきた。
けれどきみがそれを許さなかった。

あの日、死を望む僕に君は永遠にとけない呪いをかけた。
呪いの威力は絶大で、どんなに望んでも僕は死ぬことができない体になった。

僕はきみのことを恨んでいる。
どうして殺してくれなかったのだろうと恨んでいる。今も。

「許すはずがないだろ、ルルーシュ。僕はきみを殺してなんかやらない。僕を……殺さなかったきみを……」

涙声になって掠れる僕の声を聞きながら、ルルーシュはかすかに小さな吐息を漏らした。
少し苦しそうな声は僕がきみの体の上にその体を重ねているせいなのか、それともきみの願いを僕が拒絶したせいなのかはわからなかった。

「許す?誰がお前に許しを請うたというんだ、スザク。思い上がるな」

喉の奥でかみ殺したような笑い声。それは低いうねりになって僕の体に反響する。

「許されたいから死にたいんだろう、きみは」
「違う」
「ならどうして……!」
「俺はギアスを受け取ったあのとき、世界を壊し、世界を創ると誓った。そのために死ぬ必要があるだけだ」
「きみは――」
「いいかスザク、俺たちはもう後には引き下がれない。退路は既にとうの昔に絶たれたんだ。言っただろう?俺は明日が欲しいと」
「ナナリーのため……か」
「いや、きっと……ナナリーだけじゃない。たぶん」

今生きている人たちも、過去に死んでいってしまった人たちも、みんな。大切な人たちのためなのだ、それは。
そのために必要なこと。ナナリーが願ったこと。
僕は大きく瞳を見開いてきみを見る。
いつもとなんら変わりない姿形をしたきみが目の前にはいる。
表情はとても穏やかで、まるで大粒の涙をぼろぼろ零し続けている僕は道化のようだった。

「それがきみの願いだっていうんだね、ルルーシュ」
「……そうだ」
「僕がそれを拒絶しないとどうしてわかったんだい?」
「お前が俺と同じだからだ」

ああ、やっぱり。
やり方は違ったけれど。随分とここへやってくるまで遠回りをしてしまったけれど。
きみも僕も、願って望んだそのことはたった一つのことで、それは7年前のあの日から少しも変わってはいない。
色褪せない記憶が唯一。僕たちを今日までつなぎとめてきた。
だから今、僕はきみの言葉を受け止めるべきなのだろう。
きみの言葉を呑んで。きみを討つ、剣になる。

「お前が俺を討つことでゼロレクイエムは完成する。お前にならやれるはずだ。寸分の狂いもなく、ここを――」

一突き、で。

きみはとてつもなく綺麗に笑って僕の腕を取ってあたたかな胸の上に置いた。
どこまでも透き通るようなその紫水晶の瞳がただ僕だけを見て微笑んでいた。

きみを殺した僕は、きみの血となり肉となり、きみの持つ記号の一部となり。
永遠にとけない呪いにこの身を生涯捧げよう。
永遠にきえない願いにこの身をすべて投げ打とう。

そうしてきみが、僕をゆるしてくれるのなら。
僕はまた、きみに会いにゆきたい。

うまれかわったなら俺は、もっと優しい世界できみを愛せる気がするよ。



2008/10


これも最終回直後に書いた日記から。