・その手に何をつかむ・

人殺しの手だ。
数多の命を摘んできた手で今更何をしようというのだろう。
「なぁ、シャマル。次は?次はどうすんだよ?」
紙飛行機を折るその小さな指先は穢れを知らない子どもそのものの姿だった。
「あぁ……こっちをこうやって、な」
先に折って見せた紙飛行機を、あてがわれていた書斎の窓から飛ばしてやる。
一度手を離れたそれは綺麗に風にのって、窓の向こうに広がる庭園の中を悠々と横切っていった。
「すげぇや、シャマル!」
窓から身を乗り出してはしゃぐ子どもの声にいつしかつられて笑っていた。
紙飛行機の折り方すら知らなかった小さな子どもは、シャマルがその折り方を一度教えただけですぐに覚えこんでしまった。
呑み込みの早さはさすがにこの城の主の子というだけのことはある。器用に紙を折っていくふっくらしたいかにも子どもらしいその手を眺めてから、ふとシャマルは自らの手に視線を落とした。そこにあるのは無骨な人殺しの手だ。
血に塗れたその指先で、穢れのない真白な紙を折る。日の当たる窓辺で紙飛行機を折る指は、これまで幾人もの人間の血を啜ってきた指だった。
「なぁ隼人」
「……うるっせぇなぁシャマル……もーちょっと……今いいとこなんだからよ……」
「隼人」
「ったく、なんだよ!」
見上げてくる隼人のまるい瞳がさらに大きく見開かれるのとシャマルが彼の頭を撫でるのと、どちらが先だったかはわからない。
それでもただ一つ、この柔らかい髪の感触だけが人殺しの指先を人間のそれに変えてくれるのだと信じることだけは許して欲しい。
今だけは、どうか。


2007/5/14