・彼とカレー・
今日の夕飯は世界一美味いカレーだと嘯くシャマルに、カレーなんて誰が作っても同じだと言ったら、「じゃあお前がやってみろ」と、むきかけのたまねぎと包丁を両手に持たされた。
引っ込みがつかなくなった俺はしぶしぶ渡されたたまねぎの皮をむいた。しばらく俺の隣でその様子を見ていたシャマルは、たまねぎをきざみながらぼろぼろ涙を落としている俺の姿に我慢の限界を超えたらしく、突然弾けるように笑い出して、俺の手から包丁を奪った。
「あんな、隼人。これはこう、繊維に沿って切ればそこまで酷くはなんねーもんなの」
俺の後に続けてたまねぎをきざむシャマルの手つきは慣れたもので、いびつな形にきざまれたたまねぎの後に、均一な大きさに整然ときざまれたシャマルのたまねぎが加わっていく。
「野菜をきざむときは大きさそろえねーと、火の通り具合がまちまちになっちまうだろ?」
俺が返事をしないでいると、シャマルはにんじんとナイフを寄越してきた。
「お前はこっちな」
皮をむけということだろう。ナイフを使う俺の手つきを見ながら、シャマルは「今度ピーラー買いに行こうな」と笑いながら言った。
悪戦苦闘の末、食卓に並んだ皿の中のにんじんもじゃがいもも、俺がきざんだ野菜たちはみんな不恰好な姿をしていたけれど、シャマルのカレーは悔しいぐらい美味かった。
***
あのとき二人で食べたカレーを思い出す。
カレーなんて誰が作っても同じだ。でも、あんたのカレーが一番だ。今ならそう、言えるから。
なぁ、あんたは"今"どうしてる?
2007/6/12
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